1/29/2013

野村克也と森祇晶の対談内容 - 1984年2月24日

野村克也と森祇晶の対談内容 - 1984年2月24日

野村:長年捕手やってて、名捕手だったなって選手は誰かいる?

:野村克也という選手がいたね

野村:何を言うとるのやw

:ノムさんこそどう?

野村:おらんね。結局捕手は、分かりやすいファインプレーが無い。捕手の巧拙は、相当な専門家でなければ分からない

:捕手は地味なポジションだけど、じっと見ていると1つ1つの投手の投球に対して、
気配りとか、どうやってこの打者を打ちとろうとか、表現というものがある。そういう意味では阪急の中沢は、その表現がよく見える。捕手として苦労しているのが分かるよ

野村:中日中尾は捕手っぽくないなぁ。「森、野村が作った捕手像を俺が変える」と言ってるらしいけど、どう変えたいんだろう。打って、走って、守って、目立てるって言いたいならそれは間違いや

:彼はスターだから。陰の人間じゃない

野村:スターと言えばドカベン(南海香川)はどう?

:DHでいいよ彼は

野村:捕手はあかんということか?

:僕の口からは言えんよ

野村:同じパの、近鉄の梨田と有田には期待しとったんや。特に日本シリーズを経験すると、捕手は伸びるやろ?だけど、2度シリーズを経験しても進歩が見えん。キャッチャーは危機感や怖さを知ってなきゃ良い捕手にはならん。その点、巨人の山倉は少しずつ良くなってる。西武に痛い目に遭ったやろ。あれをどう生かすか

:まだまだ相手が見えるところまではいってないと思う。山倉の場合、競争相手がいないからね・・・。競争相手がいた方が、危機感も成長度も違うよ。彼にはひしひしとしたものがない

野村:でも、成長はしとるで

:成長という意味では、うち(西武)の捕手の方が伸びてきてる。特に伊東が頑張った
高校出で僅かな期間で日本シリーズでて、それ相応の結果を出してくれた。まだインサイドワークの面まで要求するのは酷だけど、年々いいものは出てきている。正念場だね

野村:西武の三捕手(伊東、大石、黒田)はみんな性格が違っていて面白い。
大石は頑固一徹。間違ってても貫こうとするから捕手としては考え物や。伊東との違いは素直さがあるかないか。伸びるには素直さが一番大事なんだ。その点黒田は、80%ずるさしか考えてない。裏をかこうとばかり考える。打者次第では、裏が表になることもあるんだ

:それはあんたが悪いよw(黒田は元南海。ノムの2番手捕手だった)

野村:俺は相手を見てずるさを出したよ。黒田は誰にでも出そうとする

:大先輩にそっくりだよ、彼は。動作、喋り方、飯の食い方までノムさんそっくりだよ

野村:しかし、大学出の名捕手ってのは出てこんもんやな。18~22歳までの間に、変な習慣でもつくのか大学でやって来たという自負心があるのか

:大学でレギュラーになったら勉強しなくなるだろうからね。4年間しかないから
勉強って野球の勉強のことよ

野村:なんで高校出がいいかというと、プロへ入ったところでもう自分が自覚してるわけよ。自分は何も知らない、プロで色々学ぼうという意欲がある。大学出にはどうもその辺が欠ける

:本当に勉強していこうという気が無かったら。ものは覚えないですよ。意識するか否かだけでもずいぶん差はついてくる。僕はキャッチャーによく言うんです。味方が打ってる時でも、自分が座ってたら何をするかということを考えて野球を追っていけと。その積み重ねが、捕手の第六感を養っていくと思うんです。ほんの数秒の間に、相手監督の采配、打者の長所短所、投手の調子、それに対する守備位置、すべてのものを指一本出す前に考えていくわけだから、常日頃から鍛えてなければ、そういうものは瞬時に頭をよぎらない

野村:だから捕手はみんなヘビースモーカーになるわけやw 捕手の適性を見るのは難しい。他のポジションなら足が速いとかで外野を決めたりとかできる。捕手で最優先すべきなのは性格なんだ。でも、性格を見抜くにどうしても時間がかかる

:それはそうですよ。やっぱりあんたもそうだけど、捕手にはねちっこさがないと駄目だね

野村:わしにはそんなもんないでw

:いやいや、めちゃくちゃあるよw

野村:あんたは、10点とられても11点目をとられまいとする捕手。わしは10点とられたらお手上げや

:10点とられてもあとの1点をとにかくやらんという考えが捕手には大事。勝負なんてどう転がるか分からない。あきらめたらそこで試合は終了なんだ。1点とられても、2点目はなんとか防ぐ。それが駄目なら3点目を防ぐ。その1点が必ずどこかで響いていくる。長いペナントレースの中で、1つ2つそういう努力によって拾うことができたら、
それは大きな星になって変わってくるからね、それは数字として表れないものであり、捕手としての本領でもある

野村:野球の奥義を極めると言うのは、捕手が一番なんだ。他の野手の性格や、コーチや監督の能力もよく見えるからな

:グラウンドに入ると選手が練習している。それを何気なく見てても全体が目に入ってくるのね。内野でゴロをとっている選手、走塁練習している選手、外野で捕球している選手。それぞれがどれだけ打ちこんでやってるか、瞬時に目に入ってくる。これが捕手の修正だと思うね。また、そこまでいかないと実際のゲームでどうしようもないもの

野村:あんまり見えすぎると、つい色々言いたくなって嫌われることもあるやろ。捕手出身のコーチはうるさくてかなわん。森もそう思われてんのと違うか。

:好かれようと思ってないもの。選手に好かれるのが良いコーチなのか。その選手が一時嫌な思いをしたって、言われたことが将来プラスになったら大きな財産になるし、チームとしても非常に大きい。僕に言わせれば、選手に好かれようと思ったらコーチは辞めた方がいい。それよりまずコーチとしての仕事が何か。チームを強くするため、勝つために何をするかということのためには、やっぱり嫌なことも言わなきゃ

野村:コーチは見えないものが見えてないとあかんのや。ナイスプレー、ナイスキャッチと声をかけるくらいならファンに言ってもらった方がよっぽど力になる。見えないものを見るのがコーチというなら、それこそ捕手の領分になる

:監督と投手の間に入ることほど辛いことはない。勝利を第一に考えれば、投手に嫌がられる。監督から投手の調子なんかを尋ねられたら、正直にはっきり状態を報告する義務がある。後の決定は、代えようが代えまいが監督が持っているんだから。
でもそうすると、投手はこっちが余計なことを言ったと解釈する。でも、そうやって嫌われていかなきゃ、チームは勝てませんわ。同好会じゃないんだし、お友達作るためにプロになったわけではないんだから

野村:ヘッドコーチというのは、監督に言いたいこと言って嫌われてもいいと思う。言うべきことは言わなあかん。それを生意気というようじゃ、監督失格

:しかし、コーチも監督に恵まれなかったら殺されるだろうな。そういう点では、僕には広岡監督という、全てにおいてよく理解してくれている人がいるからこそできるんだと思いますよ

野村:捕手やってて受けやすい投手はどういうタイプ?

:やっぱりコントロールがある投手だよ。自分の考えに大体ついてきてくれるもの。そうすると、捕手の面白みというものは倍加されますからね

野村:わしは技巧派や。一番面白かったのは皆川だな。杉浦は全然面白くなかった。球に威力ありすぎて、リードがいらんかったもん。彼が投げていると、捕手はただの壁にすぎない。だから杉浦に似ている江川は受けたくないね。森は江川受けてみたいんじゃない?

:違うね。捕手として嫌なのは、江川のように力を持ってても、のらりくらり自分の気分によって投げる投手ですよ。たとえば投球練習の時でも懸命に投げてくれれば、こっちも声を出して「よっしゃ!」と言える。でもいつになったら全力で投げるのか分からんようなええ加減な放り方されたら、もう全然やる気無くなっちゃう

野村:俺は受けたい投手いっぱいおるわ。巨人なら定岡とか受けてみたい。広島なら大野とか、良いもの持ってても生かしきれてない投手だな。辞めんかったら良かったw

:僕は近鉄柳田なんかもっと力出せると思うけどね

野村:パリーグなんかいっぱいいるよ。ロッテの投手なんか全部受けたいわ。どんだけプラスアルファ出せるのか(ちなみにこの年からロッテの監督にはノムの親友稲尾が就任)
ああいうの、わしは好きだわw 誰が受けてもどないもならへんのを受けてみたいw

:ノムさんはずるいなぁw

野村:でも神経使いすぎたせいで、髪の毛ごっそり抜けたよ。森はたっぷりあるのぉ

:僕だって色々痛んでる。捕手は痛むもんだよ

野村:現代に名捕手がいないのもそんへんだね、どうも

終了